題:子どもの健康と生存ーエリトリアからの教訓
英題:Child health and survival: lessons from Eritrea
記事リンク:Eritrea: Child Health and Survival – Lessons From Eritrea – allAfrica.com
内容と背景:
こんばんは!Pick-Up!アフリカをご覧いただきありがとうございます。
本日は、サブサハラアフリカの国の1つであるエリトリアで行われている乳幼児死亡率(生まれてから5歳までに死亡する子どもの割合)を減らすための取り組みについてご紹介します。
エリトリアは「アフリカの角」という大陸北東部の地域に位置している、人口約550万人の国です。この国は1993年にエチオピアから分離独立を果たし、それ以降イサイアス・アフェウェルキ大統領によって統治されていますが、今回の記事ではその過程の中で乳幼児死亡率が著しく減少したと述べられており、実際に1993年では1000人あたり130の乳幼児が死亡していましたが、2020年にはその数は39人にまで減少しました。
この値は世界の乳幼児死亡率の平均値である1000人あたり37人(2020)よりは少し多いですが、サブサハラアフリカの平均値が1000人当たり73人であるので、現在のアフリカの中ではとても低い値であると言えます。
1993年に分離独立してから30年ほどしか経っていないことを鑑みると、エリトリアのこの分野での成功は著しいものだと考えられます。エリトリアがこれほどまでに死亡率を抑えることができた理由は何なのでしょうか。本記事ではその理由を探るために、エリトリアが属するサブサハラアフリカでの乳幼児の死亡要因をご紹介した後、そうした要因に対するエリトリアの具体的なアプローチを挙げていきます。
サブサハラアフリカでの乳幼児の死亡原因
サブサハラアフリカでの乳幼児の直接的な死亡要因として主なものは、先天性疾患や出生時の窒息、下痢、また肺炎やマラリアといった感染症だと言われています(文末記事1)。こうして病気や感染症が主要な死亡要因を占めることからも分かるように、医療の状況や衛生環境がサブサハラアフリカでの乳幼児死亡率の高さの間接的な要因となっています。
医療の状況に関する問題点としては、医療サービスへのアクセスが限られていることを挙げることができます。出産時に新生児(生まれてから4週間以内の子ども)が死亡するリスクを下げるためには出産前に医療機関によるケア(産前健診)を受けることが重要であり、ラテンアメリカやヨーロッパでは90%以上の人が少なくとも4回産前健診を受けていますが、サブサハラアフリカでは1回健診を受ける人が約80%、4回以上健診を受けられる人が約50%であり、一部の人がサービスを受けられない状況にあります(文末記事2)。そのためにサブサハラでは新生児の死亡率が高くなっています。
また一部の人が産前健診を受けられない状況は人々の経済状況や医療機関へのアクセスの悪さに起因しており、実際にサブサハラ地域で最寄りの病院に行くのに2時間以上かかる人口は全体の3分の1にも及ぶと述べられています(文末記事3)。こうした限られたアクセスにより、子どもの時に打つべき予防接種を受けることが出来なかったり、病気にかかっても病院に行けない子どもが多いことも乳幼児の死亡率を高めてしまっています。
衛生環境については、主に水の問題を挙げることができます。サブサハラアフリカではインフラ設備が不完全なために安全な飲み水を手に入れることが出来ない人も多く、実際に2015年時点で安全な水へのアクセスを持たない人々の割合は45%にまで及んでいたとされています(文末記事4)。そうした人々はやむを得ず汚れた水を飲むことになりますが、その水は腸チフス、コレラ、ポリオなどの病気を引き起こす可能性があり、それらの病気に伴う下痢症によって多くのアフリカの乳幼児(毎年約30万人)が命を落としていると言われています(文末記事5, 6)。
また、こちらの記事では、家庭で管理している水が乳幼児の主要な死亡原因の一つであるマラリアを媒介する蚊を増やす可能性もあると述べられています。蚊は水の中に卵を生みますが、それらは比較的きれいな水を好むため、屋外で保管されている家庭用の水は蚊の繁殖場となる確率が高いです。そのため、衛生的な方法で水を管理しなければ蚊の増加とマラリアの蔓延に繋がってしまいます。
これらのことから、サブサハラアフリカでは限定的な医療サービスへのアクセスという医療の問題と、病気の蔓延を促進する水を中心とした衛生状況の問題という2つの主要な要因によって乳幼児の死亡率が高くなっているといえます。
エリトリアでの乳幼児の死亡を防ぐための取り組み
エリトリアは上記の医療と衛生状況の問題に対して積極的なアプローチを取ることで、乳幼児の死亡率を減らしてきました。
限られた医療サービスの問題には、第一に医療機関の数を増やすことで対応してきました。実際に今回の記事では、1993年には国内に93軒のみであった医療機関の数が今では350軒にまで増加し、約80%の人口が10km以内に最寄りの医療機関を持つようになったことが紹介されています。そして第二に、医療機関を訪れた妊娠中の女性にビタミン剤や蚊帳を提供することで彼女たちが医療機関のケアを受けに来ることを奨励し、出産時に医療行為を受ける女性の数を増やしました。
これら2つの取り組みによって妊婦へのケアが拡充され、現在定期的な産前健診、産後健診を受けることができる人口は98%、熟練した出産介助者による分娩の割合は71%にまで及ぶと言われています。(1991年にはそれぞれ19%と6%)。そのために、エリトリアでは新生児の死亡率も低く、2019年のサブサハラアフリカの平均では1000人当たり27人の新生児が亡くなっているのに対し、エリトリアでその数は17人となっています(文末記事1, 7)。
また国家主導の予防接種の拡大によって、乳幼児のワクチンへのアクセスも広がっています。実際に独立当時は10%程度だった全国的な予防接種率は、現在では95%を超え、接種ワクチン数も独立時の6種から12種に増加しました。このようにして人口のほとんどが予防接種を受けられるようになったことが、乳幼児の死亡率の低下に貢献しました。
水を中心とした衛生問題に対しては、衛生サービスの拡充によって対応してきました。1991年には国民のわずか19%しか安全な水へのアクセスを持っていませんでしたが、国が衛生サービスの拡大を推し進めてきたことで現在その割合は80%にまで増加しました。また、家庭のみならず、学校施設や保健施設内の公共衛生サービスも拡充され、現在それら施設のうち50%以上が十分な水、衛生設備、衛生サービスを備えていると言われています。
このようにして衛生状況が改善されたことで、子どもが汚れた水を原因とする重大な病気に罹るリスクは大幅に軽減されました。
このように、エリトリアはサブサハラアフリカでの乳幼児死亡の主要な環境要因に対して的確なアプローチを取ることで、自国での乳幼児死亡率を減らしてきました。今回ご紹介したエリトリアの取り組みは他のサブサハラ地域でも効果をもたらす可能性が高いので、エリトリアのような手法で乳幼児死亡率の低下に積極的に着手する国が今後増えていくことに期待したいです。
関連、参考記事:
1.Fewer children are dying before their fifth birthday.