アフリカのマラリア対策と食糧供給:水田とマラリアは関係しているのか【Pick-Up! アフリカ Vol.23:2022年4月8日配信】
訳 : アフリカの稲作農村では、マラリアが多い。
英題:‘Africa’s rice-farming villages more prone to malaria’
記事リンク:https://www.scidev.net/sub-saharan-africa/news/africas-rice-farming-villages-more-prone-to-malaria/
こんばんは!pick-up!アフリカです。いつも記事をご覧いただき、ありがとうございます。
本日は、アフリカの稲作とマラリアに関する興味深いニュースをお伝えします。
引用元の記事によると、アフリカの稲作地域において、その他の地域よりもマラリアの感染者数が多いという研究結果が発表されたそうです。
近年アフリカではマラリア感染対策が進んでおり、急激に感染者数が減少している一方で、未だに多くの子供たちがマラリアによって命を落としています。
稲作についても、アフリカでは米の需要が急増しており、今回のニュースはアフリカの保健衛生と食糧供給の二つの観点で重要な課題となっています。
本記事ではそんなアフリカにおける稲作とマラリアの関係性、そして今後予想されるマラリア対策についてまとめました。
稲作地帯でマラリア感染者数が増加
今回ご紹介する記事によると、The Lancet Planetary Health誌の3月号において、アフリカの灌漑水田のある村ではそうでない村に比べて、マラリアが多発しているという研究結果が発表されました。
記事によると、2003年以降稲作地帯の農村で見つかる蚊の数は非稲作地帯の6~8倍となっており、マラリアの感染者数は2倍になっているようです。
さらにこの傾向は1990年代のマラリア感染者数が比較的多い地域では見られておらず、当時の稲作地帯におけるマラリア感染者数は非稲作地帯と同等かそれ以下であったことから、「水田のパラドックス」として知られていたようです。
今回の研究は、アフリカの14か国で1971年から2016年にかけて行われた53の研究結果に基づいて行われており、研究を行ったChan氏は本研究の意義として、マラリア感染者の増加に農業が与える影響と、マラリアを抑制するための農業について特に焦点を当てて研究を行ったと述べています。
アフリカにおけるマラリア
マラリアはアフリカで最も身近で、危険な感染症の一つとして知られています。
WHOのHPによると、マラリアとは蚊に刺されることで、蚊の内部に潜む寄生虫が体内に侵入して引き起こされる病気で、頭痛や発熱等の症状が現れるそうです。
マラリアの原因となる寄生虫は主に5種類存在し、最も重症化を引き起こすものに感染すると、最悪の場合死に至る可能性があります。
同HPによると、特に子供の発症において重症化のリスクが高く、アフリカのマラリアによる死亡者数のうち80%を5歳未満の小児が占めているようです。
さらに同HPによると、2020年のマラリア患者数は世界で2億4100万人、死亡者は62万7000人と推定されています。そのうちアフリカは感染者数の95%、死亡者の96%を占めており、世界でも異常なまでにマラリアの感染者が多いことがわかります。
しかしその一方で、世界のマラリア感染者数は着実に減少しています。こちらの論文によると、世界のマラリアによる死亡者数は2000年の73万6000人から、2019年には40万9000人にまで減少したと記されています。
アフリカでも同様に、マラリアによる死亡者数が2000年には68万人だったものが、2019年には38万6000人へと44%減少しました。また人口10万人あたりの死亡者の危険水域も121人から40人へと減少したと記されています。
稲作とマラリアの関係性とは?
このようにマラリアの感染者数は改善しつつある中で、なぜ今回稲作地帯とそうでない地域に感染者数の違いが生じることが判明したのでしょうか。
これには、水田という環境的要因が大きく影響しています。記事によると、水深2〜10㎝ほどで太陽の光がよく届き、流れが穏やかである水田の環境が、マラリアを媒介する蚊にとって理想的な繁殖環境であると述べられています。
またこちらの別の記事では、稲作地帯でマラリア感染者数が多いという、以前は見られなかった傾向がなぜ本研究においてはみられるようになったのかという点について考察されています。
記事によると、2003年以前はアフリカの多くの地域でイネの栽培技術が未発達であったため、稲作による経済効果により、その地域では蚊帳の利用な医療の充実等がもたらされたことで、非稲作地帯よりもマラリア対策が進んでおり、結果的に感染者数への影響があまり現れなかったようです。
すなわち、近年はマラリア対策が拡大し、アフリカ全土で普遍的に感染対策が行われるようになったことで、水田という環境的要因がマラリアの発症率に影響を与えるようになったと考えられるということです。
一方で、アフリカの食糧安全保障において、稲作の生産性を増加させることもまた重要な課題となっています。
近年アフリカでは米の需要が急激に増加しており、こちらのHPによると米は主に西アフリカとマダガスカルで最も重要なエネルギー源となっています。さらに同HPによると、近年人口増加や都市化などの影響を受け、アフリカでは米需要が年6%以上増加しているようです。
しかし米の需要の急激な増加に国内の生産量が追いついていないのが現状であり、こちらの統計データによると、西アフリカの国々における米の輸入への依存度は20〜50%台を推移しています。
実際に近年のアフリカの米需要の増加に伴い、灌漑技術の向上、灌漑水田の増加が見られています。
2019年に発行されたこちらの記事では灌漑を用いたアフリカでのイネの生産性の向上についてまとめられています。エチオピア、ケニア、マリ、ニジェール、南アフリカでのイネの生産量から算出されたデータによると、灌漑栽培を行うことで、天水栽培の2倍以上の収量が得られる可能性があると述べられています。
アフリカの灌漑栽培に関する取り組みについては、私たちの過去の記事でもご紹介しています。こちらもぜひ、ご覧ください。
マラリア対策とイネ生産を両立するには
以上のことからも、アフリカでは今後、マラリア対策と生産性の高いイネ栽培の両方が必要とされることが予想されます。
引用元の記事では、稲作地帯でもマラリアを撲滅するために、殺虫剤処理された蚊帳、住宅設計の改善(窓やドア、軒下からの侵入の防止)など、大規模な対策を施す必要があると述べられています。
こちらの記事によると、WHOが推進しているマラリア対策の一つに殺虫剤を処理した蚊帳の使用があります。一方で、2020年時点でサブサハラ地域において殺虫剤処理の蚊帳を使用している世帯は65%しかおらず、5歳未満の子供では43%に過ぎないと述べられています。
こちらの記事では、栽培方法の観点からマラリア対策について述べられています。
記事によると、イネを栽培する際に水田の水を張った状態と水を抜いた(乾いた)状態を交互に繰り返すことで、蚊の発生を抑制するだけではなく、米の収量の増加やメタンガスの発生を抑制することによる環境への良い影響が得られる可能性が示唆されました。
稲作とマラリア対策について、最後にこちらの論文をご紹介します。
この論文によると、灌漑栽培でイネの生産量が増加し、経済状況が改善されることで生活水準が向上し、効果的なマラリア対策や医療インフラへのアクセスにつながると述べられています。
いかがでしたでしょうか。灌漑稲作の普及はマラリアを発生させる原因の一つとなっている半面、イネの生産性を向上させることにより、間接的にマラリア対策につながっている側面もあるようです。
いずれにしても、より多くの人々に殺虫剤や蚊帳、ワクチンが行き届いていないことが、現時点でのアフリカ農村部が抱える課題であると言えるでしょう。
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参考文献
1.Malaria transmission and prevalence in rice-growing versus non-rice-growing villages in Africa: a systematic review and meta-analysis – The Lancet Planetary Health – Link
2.Malaria | WHO HP – Link
3.What sub-Saharan African countries can learn from malaria elimination in China | Tropical Medicine and Health | Full Text – Link
4.More malaria infections now found in African communities with irrigated rice fields | LSHTM – Link
5.AfricaRice | Why rice matters for Africa – Link
6.Rice trade and value chain development in West Africa: An approach for more coherent policies (ECDPM-IPAR Discussion Paper 283) – Link
7.Irrigation doubles African food production – AGRA – Link
8.A new strategy is required for malaria elimination in Africa – The Lancet Infectious Diseases – Link
9.Rice irrigation strategies to protect public health in Africa – CGIAR – Link
10.https://resjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1046/j.1365-2915.2001.00279.x – Link
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1.米国ネブラスカ大学:サハラ以南アフリカで灌漑農業を促進へ【Pick-Up!