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アフリカ・ルワンダ オフショア開発 / 進出支援コンサルティング
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「アフリカの緑の革命」が農家に受け入れられていない理由 【Pick-Up! アフリカ Vol. 240:2021年11月27日配信】

 題:アフリカ人のいないアフリカ農業

英題:‘African agriculture without African farmers’

記事リンク:https://www.aljazeera.com/opinions/2021/10/9/african-agriculture-without-its-farmers

こんばんは!いつもPick-up!アフリカをご覧くださり、ありがとうございます。

今回ご紹介する記事は、アフリカ農業で行われている緑の革命の負の側面についてです。

pick-up!アフリカでも過去に何度かご紹介しているように、アフリカではいま急速に経済成長が進んでいます。特に農業はアフリカの中でも未だに主要な産業に位置しており、食糧生産だけではなく、経済面でも重要な役割りを担っています
一方で、貧困や栄養不良に苦しむ市民も数多く存在しており、十分な食糧をいかに多くの人たちに安定して供給できるかが今後のアフリカの発展の鍵を握っていると言えます。

このような現状を解決するため、様々な国際機関、団体、企業がアフリカの農業環境の改善に取組んでいます。
しかしその活動は果たして、本当に現地の人々、特に貧困に苦しむ人々を救っているのでしょうか。

今回は、国際的なアフリカの農業開発支援プロジェクトの現実に目を向けた記事をご紹介いたします。

アフリカの緑の革命とは?

今回取り上げた記事では、アフリカの食糧供給を強化するために行われているプロジェクトによって、かえってアフリカの小規模農家が土地を奪われ、農業から離れていくという事態を引き起こしていると主張しています。

問題となっているのが、アフリカの緑の革命と呼ばれるプロジェクトです。

私たちの別の記事(こちら)でも以前ご紹介した様に、アフリカでは小規模農家の割合が農業従事者の多くを占めており、この小規模農家の生産性や市場とのアクセスを向上させることでサブサハラ、ひいてはアフリカ全体の食糧保障を強化しようという取り組みになります。

では具体的にアフリカの緑の革命とは、どのようなプロジェクトを行っているのでしょうか?

アフリカの緑の革命を主導するNGO団体、Alliance for a Green Revolution in Africa (AGRA)のHPによると、このプロジェクトは2006年に結成され、ビルゲイツ財団とロックフェラー財団によって資金提供が行われています。

アフリカの各地の政府や機関、農業組合に対して、政策立案や新たな市場の開拓、新たな栽培技術(新品種、肥料など)など包括的なサポートを行い、近代的な農業をアフリカに普及させることで生産量の拡大を目指しています。

現在ケニア、ナイジェリア、ガーナをはじめとするサブサハラ諸国11か国において重点的に活動しており、発足から15年間でおよそ10億ドルが費やされています。

AGRAは2020年までに、以下の二つの目標を達成することを掲げています。

1)3000万世帯の農家の収量と収入を倍増させること

2)アフリカでの食糧不安を半減させること

新しい農業技術の導入による負の側面

今回ご紹介しています記事では、プロジェクトを紹介するだけでなく、これまでの取り組みのもたらした結果などに関しても分析しています。これらのプロジェクトが、アフリカの小規模農家を支援することをうたいつつも、結果的には経済界の流れに即した農業を既に行っている地域の農業起業家や農業企業、大規模農家を農業経済の分野でさらに成功に導く支援になっており、それが彼らと小規模農家との経済格差の拡大や土地の収奪を生み出しているとしています。

さらに記事では、アフリカの緑の革命の主要政策でもあり、これらのプロジェクトのもと実際に採択される、新しい品種や合成肥料を使用した近代的な農業も、この深刻な社会問題を助長しているとも書かれています。。

記事の中では、日本のササカワ財団を中心として、サブサハラの小規模農家にハイブリッド種子の配布を行ったところ、結果的に小農家の間では広まらなかったことについて述べられています。

その背景として、小規模農家は配布された新しい種子よりも、今まで使用していた従来の品種を好んで使用していたことが研究で指摘されています。従来の品種がアフリカの気候や土壌に適応しているため、干ばつにも強いうえ、栽培方法も従来通りであるため、労働力も少なく済みます。

一方でハイブリッド品種は収量を増加させるものの、栽培管理に手間がかかり、従来よりも労働力が必要とされます。加えて、化学肥料の使用を前提としているため、結果的に栽培にかかる費用が増加しているという一面があります。

別の記事においてもこの点は指摘されており、つまるところ新しい高収量品種や合成肥料にかかる費用に対して収量の増加がそれほど大きくないため、作物の増加分を販売した際の収入の増加では、栽培にかかるコストを維持できないということです。

加えて、近代的な農業で問題視されている土壌の荒廃や環境負荷の増加も、新品種の導入によって助長されるようです。

従来の農法で栽培されているトウモロコシは、ピーナッツやササゲ、豆類等と同じ圃場で栽培する混植という農法を行うことで、圃場内の多様性を維持し、それぞれの作物や土壌に対して良い影響を与えていました。

一方で近代的な手法は、単一の作物を、合成肥料を用いて栽培することで効率化を図っており、結果的に土壌の肥沃度の低下につながります。肥沃度の低下した土地で栽培を行うために、さらに多くの肥料が必要になるという悪循環も発生しており、経済面、環境面の両方で負担が増加していく危険性があります。

化学肥料の普及に関しては、以前当メディアで掲載したこちらの記事も合わせてご参照ください。

アフリカの食糧問題解決と土地収奪

しかし、記事によると、これらの取り組みは負の遺産だけを残しているわけではないことも書かれています。取り組みにより、新しいが高価な技術が開発されるとともに、アフリカの農産物の市場へのアクセスを改善したことによって、結果的にアフリカの農業にビジネスチャンスが広がり、ビジネスマンの参入が増加したことも書かれています。

ただ、その反面、経済力に乏しく、その日を生きるための資金を必要としている小規模農家たちが、先に述べたような土地へのメンテナンスの必要などが増え、コストがかさんだことから、土地を手放すことを選択し、小規模農家が土地を追われるような事態も生まれてしまっているとも書かれています。

さらに深刻なことには、プロジェクトの責任者の多くがこの労働力の農業離れを、プロジェクトの負の側面として分析理解するのではなく、農産物生産や経済の発展の過程においては避けられないことであると考えており、土地を失い、職を求めて都市部へ異動した農家たちを淘汰されたものと表現してしまっていることにもあると記事では言及しています。

記事の中でロックフェラー財団のRajiv Shah氏は「アフリカ独自の農業革命は、食糧をより入手しやすく、そして流通しやすくすることで飢餓に打ち勝つことを意味していました。しかしこの革命はまた多様性のある近代的な経済を実現するためのものでもあり、食糧生産に多くの労働力を占めさせる必要はなくなったのです。」と述べています。

しかしこの成功の裏で、アフリカのいくつかの都市では農民の都市部への流入が増えたことでスラムと失業者数は増加し、食糧不安や単一栽培による土地の荒廃も進んでおり、実際に計画された通りの未来が描けているとは言い難い状況です。

声をあげる人々

またこちらの別の記事でも、アフリカの緑の革命について懐疑的な意見が述べられています。この記事では、実際に2018年のFAOと世界銀行の統計資料を用いてこのプロジェクトの評価を行っています。

その結果、主食作物の生産性はプロジェクト開始前と比較して12%しか増加しておらず、本来の目的である2倍の収量(=100%の増加)には遠く及ばないことが分かります。

サブサハラアフリカの貧困、栄養状態に関しても同様のことが述べられており、国連のデータによると、あくまで推計ではあるものの13か国における栄養不良状態の人口は、2006年から31%増加、サブサハラでの飢餓状態にある人々の数は50%増加していると述べられています。

このような現状を受けて、アフリカの農民たちも様々な声をあげています。

今年の九月に行われた国連主催の第一回UN Food Systems Summitでは、小規模農家や先住民族のコミュニティの代表グループがボイコットを表明しました。この会議では、学者、NGO,市民グループなど様々な分野の専門家を集め、世界規模での持続可能な開発目標(SDGs)に乗っ取った食糧生産の解決策を話し合う場として開催されました。一方で、現代のフードシステムを支配する多国籍企業の役割りや責任についての議論が十分に成されていないとの批判も出ています。

このサミットに反対する団体の意見として、国連をはじめとしたあらゆる開発機関が食糧問題を解決するためのプロジェクトにおいて民間セクターに役割りを与えたことで、食糧問題に対する解決策がテクノロジーや莫大な資本投資を前提としたものになり、結果的に企業や少数の個人に支配力が集中していると主張します。

この会議については、以下の記事に詳細に書かれておりますので、ぜひご一読ください。(参照1、2)

今年行われた「アフリカ緑の革命フォーラム」のテーマは、”singular coordinated African voice = 統一されたアフリカの声”となっています。

本当の意味で、アフリカの全ての声が統一される日は果たして来るのでしょうか。アフリカ農業の多様な声を聞き、農業の発展に活かしていく必要がありそうです。

私たちpick-up!アフリカは、今後もアフリカの農業や環境、経済に関するニュースを発信していきます。ぜひご期待ください!

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