訳 : アフリカのアグロエコロジー:銀の弾丸か、それとも貧困へと通ずる道か
英題:Agroecology in Africa: Silver bullet or pathway to poverty?
https://allianceforscience.cornell.edu/blog/2021/04/agroecology-in-africa-silver-bullet-or-pathway-to-poverty/
こんにちは!いつもPick-Up!アフリカをご覧いただきありがとうございます。
今回取り上げるテーマは、環境にやさしい新しい農業の形、アグロエコロジーについてです。アフリカの農業には、いまだに多くの課題が残されています。特にアフリカの農業の大部分を占める小規模農家の貧困問題は深刻で、貧困からの脱却が重要なテーマとなっています。
一方で世界規模での課題である、地球温暖化が農業に与える影響も見逃すことができません。現在先進国を中心に、農業の地球温暖化への負担を減らす取り組みであるアグロエコロジーが注目されています。
また農業が環境に与える影響だけでなく、温暖化による農業への影響も問題となっています。
マッキンゼー・アンド・カンパニーが発表したこちらのデータによると、2050年までにアフリカ全域の平均気温が2.6~3℃上昇し、特に北部と南部の広い範囲で3.5℃を超えるとみられています。この気候変動は、モザンビークのトウモロコシの生産量が25%以上減少する確立を2030年に3.5%まで引き上げるとされています。
加えてこちらの記事では、アフリカの農業の気象変動に対する脆弱さが指摘されています。アフリカの小規模農家の多くが経済面やインフラ、得られる情報量の少なさなどで課題を抱えており、そのことが原因で新たな農業技術の導入が大きく遅れています。そのことが結果的に農業の気象状態への依存性を高め、豪雨や干ばつ等の異常気象による被害が大きく現れます。
このように、気候変動はアフリカの地域にも大きな影響をもたらし、特に国民の多くが農業を生活の糧としているため、人民や経済に与える影響は甚大であると見積もられています。
アフリカの農家の多くが日々貧困との戦いを強いられている中で、アグロエコロジーの取組みは本当に必要なのでしょうか。また、環境保全と経済の安定を両立するような方法は存在するのでしょうか。
アグロエコロジーとは
FAOによるとアグロエコロジーとは、「農業への環境保護を目的とした生態学原理の応用」と記しています。アグロエコロジーは、1980年代後半に南米で誕生しました。「agri(農業)」と「ecology(生態系)」の二つの単語から作られた造語であり、その名の通り、生態系が本来持つ自然治癒力を活かした農業を行います。
しかしながら、農法としてのその言葉の定義は未だに研究段階であるほか、人によってそのとらえ方も様々です。
ここでは現代の工業的な農業を対象に、アグロエコロジーの特徴をあげていきたいと思います。
まず現代の農業の特徴として、「単一品種、大規模、多投入」のキーワードがあげられます。農業の機械化が進んだ現在において、大きな農地に同一品種の野菜を植えることで効率的な栽培や収穫を行っています。また化学肥料や農薬も、栽培管理を効率化するためには必要とされます。
その対象としてアグロエコロジーを解説すると、「少量多品種、小規模、低投入」というキーワードで表すことができます。現代の農業は非常に効率的で、世界中の人口分の食糧供給を賄うためには欠かせないシステムである一方で、単一品種による栽培は土地の栄養分の偏りを生じさせ、土地の荒廃につながります。化学肥料の大量投入も同様に土地の荒廃につながる大きな要因のひとつであり、農業による環境汚染のひとつとして問題視されています。
また農地自体も、自然を切り開いて開発されているという点で、生態系の破壊に大きく関与しており、特に農薬の使用による害虫駆除は生態系のバランスを崩しています。
自然の生態系を活かしたアグロエコロジーの手法は、これらの要素を対策することを目的としており、環境保護の観点から推奨されている農法です。
具体的には、1)資源の再利用やCO2 排出量の削減による気候変動の緩和、2)害虫防除や作物の受粉等の作業を野性動物の働きによって行う野生生物との協働、3)地域の農民が主導して、地域ごとの社会的、環境的、経済的条件に合わせた農業であるとされています。(こちらの記事を参照)
アフリカの小規模農家の深刻な現状
一方で、アフリカの小規模農家の現状はどのようになっているのでしょうか。こちらの記事によると、アフリカの小規模農家の多くは本来収穫できるはずの量の作物を収穫できるまでに至っていません。サブサハラ・アフリカの農家の多くは、所有している農地が平均2ha以下であり、本来のポテンシャルを十分に発揮したと仮定すると、その生産額は年間1000~2000ドルであると見込まれています。理論上は、現状の農法をより収益性の高い方法に改良することで、農家の生産量は大幅に向上させることができます。例えば、栽培する作物の品種へを改良したり、化学肥料の投入量を増加させる等です。
しかしながらこのような生産量を増加させる技術を導入したところで、アフリカの小規模農家が貧困から抜け出すことは難しいとされています。その原因として、小規模農家が所有する土地面積の小ささがあげられます。2ha以下の農地面積での収量のみで貧困から脱却するためには、少なくとも1haあたり年間1250ドルの収益が必要です。しかし残念なことに、モザンビーク、ジンバブエ、マラウイでは1ha当たりの年間収益がそれぞれ78ドル、83ドル、424ドルとなっており、貧困から抜け出すための最低ラインにすら遠く及びません。このような事実を基にすると、農業技術の向上だけで貧困状態からの脱却を目指すのは現実的ではないと言わざるを得ません。
この記事では、アフリカの農家が貧困から脱却するためには生産現場の環境を改善するだけでは不十分であり、市場やインフラなど農場の外の環境を整備することが同時に重要であると締めくくられています。
アグロエコロジーはアフリカに何をもたらすのか
ではアグロエコロジーはアフリカの農家にとって、不必要な方法なのでしょうか。今回取り上げた記事の中でも、賛否両論意見が分かれています。
まずアグロエコロジー推進派の意見として、アフリカの小農家が貧困に苦しんでいる現状は農法に起因するものではなく、市場とのアクセスなど農家を取り巻く経済状況に原因があるというものがあります。
実際に世界規模の食糧生産を見たときに、作物の生産量は世界の人口を十分補えるのにもかかわらず、供給量の偏りによってある地域では食糧廃棄が問題となり、他方では飢餓に苦しめられる人々が存在します。こちらの記事によると、毎年全世界で約9億3100万トンの食品が廃棄されており、これは世界の総食糧生産の約17%、世界経済には年間9360億ドルの損失を与えているとされています。一方で、2020年のデータでは世界の全人口の10%近く、推定7億6800万人が栄養不足状態であったと報告されています。つまり、現在問題となっている食糧不足による飢餓は、数字の上ではこの偏りを解消することで解決できる課題であると言えます。
また彼らは、工業的な農業技術を導入した現在においてもアフリカにおける飢餓の人数は減らないことからも、農業の方法が生産量に影響を及ぼすことはないと主張しています。
逆に、アフリカでのアグロエコロジーの導入に反対する人々はどのように考えているのでしょうか。
ルワンダの若い農家であり、起業家であるNshimiyimana氏はアグロエコロジーは持続可能な生産方法であるとは考えられないと主張しています。彼の主張では、気象による影響を受けやすいアフリカの農業において、農薬を使わずに生態系のメカニズムで害虫防除を行うアグロエコロジーの手法は非常に不安定であり、導入することによって農場を害虫に荒らされるリスクの方が大きいと言い、アグロエコロジーはまだこのリスクを解決できていないと結論づけています。
またこちらの記事によると、世界的なアグロエコロジーの広まりにより、かえってその意味が拡大解釈されて利用されていると主張されています。FAOや企業や主導していることで、科学者たちが本来主張してきたやり方ではなく、ただ資源を削減することだけに注力されつつあると言います。20世紀初頭に登場したアグロエコロジーという概念は、本来の低投入で持続的な農業を行うことで、農場の生物多様性を高め、持続的に農業を続けることを指していました。しかしながら、環境問題への関心が高まって行く中で、企業や団体が自身の立場を失わないように発展するために選択される方法に変化し、そこに市民の意思が介在しにくくなっている現状があります。
いかがでしたでしょうか。
農業が環境に与える影響が無視できなくなっている一方で、爆発的な世界の人口増加に伴い食糧需要も確実に増加しています。農法に限らず、私たち一人一人の食への向き合い方が問われているのかもしれません。
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