GM作物でアフリカの農業はどう変わる?ナイジェリアとケニアが共同研究を発表【Pick-Up! アフリカ Vol.31:2022年5月13日配信】
訳 : コンゴ民主共和国、ケニアと投資協定を締結。
英題:‘Nigeria, Ghana to deploy GMO crops’
記事リンク:https://guardian.ng/features/nigeria-ghana-to-deploy-gmo-crops/
こんばんは!pick-up!アフリカです。いつも記事をご覧いただき、ありがとうございます。
本日ご紹介する記事は、アフリカにおける遺伝子組み換え作物(Genetically Modified (GM) crops 通称:GM作物)に関する話題です。
近年GM作物は、世界中でその導入について有用性とリスクの両方の観点から広く議論が行われています。アフリカでも同様にGM作物の導入に関する是非が分かれている中で、ナイジェリアとガーナでは、両国の化学技術強力の結びつきの強化を目的として、遺伝子組み換えササゲの食用利用が認可されたようです。
本記事では、アフリカにおいてなぜGM作物の導入が議論されているのか、アフリカにおけるGM作物の今後についてまとめました。
アフリカ農業におけるGM作物
農業はアフリカにとって、就業人口の多くが従事し、GDPの多くを占める主要産業の一つです。
私たちのこちらの記事でも取り上げているように、アフリカ全体の就業人口のうち65%が小規模農業に従事しており、またこちらの統計データによると、サブサハラアフリカ各国のGDPにおいて第一次産業は平均18.5%を占めており、農業が重要な産業であることがお判りいただけると思います。
2020年のアフリカ大陸の各国GDPにおける農業セクターの割合(%)
(Agriculture, forestry, and fishing, value added (% of GDP) – Sub-Saharan Africa | The World Bankより)
しかしその一方で、アフリカの農業の生産性の低さは解決すべき大きな課題として挙げられています。
その要因も様々で、例えばこちらの記事の中では小規模農家の所有土地面積の低さについて触れています。記事によると、サハラ以南9か国では約80%の圃場が2ha以下であり、これらの地域の農民が貧困から抜け出すためには1haあたり年間1,250ドル以上の収入を得る必要があるとされています。しかしながら、モザンビーク、ジンバブエ、マラウイなどでは平均の収入が1haあたり年間78ドル、83ドル、424ドルであり、年間1250ドルという数字は限りなく不可能に近い値であることがわかります。
こちらの記事では、インフラの未整備などによる化学肥料の使用率の低さについて特集しています。記事によると、世界の化学肥料の使用量は1haあたり平均130kgであるところ、ナイジェリアの平均値は13kgであることが示されています。
今回取り上げるGM作物も、アフリカ農業の生産性の低さを改善するための有効な手段として、アフリカ各国で近年議論が行われています。
今回取り上げた記事によると、ナイジェリアとガーナは害虫耐性のあるGMササゲの新品種の開発に共同で取り組むことが発表されたようです。
GM作物とは、遺伝子工学の技術を用いてある植物の有用な形質を、他の植物の遺伝子に組み込むことによって、病害虫による被害を軽減や収量の増加、食味の改良を行う技術のことを指します。
記事によると、ナイジェリアの研究機関the National Biotechnology Development Agency (NABDA)とガーナの環境や科学技術に関する専門機関であるthe Chairman Parliamentary Select Committee on Environment, Science, Technology and Innovation (MESTI)が中心となってこのプロジェクトを推し進めるようです。
GM作物を導入するメリット・デメリット
GM作物の導入は、アフリカ農業の生産性の向上にどのような効果が期待されているのでしょうか。
まずはこちらの記事で取り上げられている、アフリカがGM作物を導入することへのメリット・デメリットについてご紹介します。
まず一つに、病虫害による作物への被害が激減することが期待されています。記事によると、ケニアではStemborerという害虫の被害により、年間約40万トン、総生産量のおよそ14%のトウモロコシが失われていると言います。
実際にケニアではGM作物の導入に向けた研究が進められており、別の記事によると、遺伝子組み換えを行ったトウモロコシを栽培した結果、現在の平均収量が1haあたり1.5トンであるところ、GM作物では平均5トンの収量を記録しました。
二つ目の利点として、異常気象などの環境ストレスに強い作物の作出が期待されています。アフリカの小規模農家の多くは天水に依存しているほか、最新技術へのアクセスが不足していることからも、気象状況次第で収量が大きく減少してしまうことが指摘されています。(参考記事)
こちらの記事では、ガーナの研究機関がガーナ北部の小規模農家を対象に行った調査について述べられており、その結果によると、調査対象の農民の約61%が遺伝子組み換えによって干ばつ耐性品種が開発されることを望んでいるようです。
このようなメリットが多く見られる一方で、GM作物の導入に際する障壁も多く存在しています。
こちらの記事では、アフリカ諸国がヨーロッパに多くの農作物を輸出していることがアフリカへの遺伝子組み換え作物の導入を妨げていると言います。
ヨーロッパの人々の多くは、GM作物の導入について慎重な姿勢を取っており、こちらの記事によると、以前からGM作物が人体の健康や生態系、自然環境に与えるリスクについて未だ未解明の部分が多いことが、GM作物に対する大きな懸念材料となっています。
私たちの過去の記事を参照すると、2020年のアフリカの総輸出額約172億ドルのうち、およそ1/3である約65億ドルがヨーロッパへの輸出となっており、アフリカにとってヨーロッパが重要な貿易相手であることがわかります。
このことが、アフリカのGM作物の導入を遅らせている一つの原因ではないかと記事では推測されています。
アフリカ諸国でも同様に、いくつかの団体を中心としてGM作物の導入に反対する意見が挙げられています。
こちらの記事によると、ナイジェリアの市民団体であるHealth of Mother Earth Foundation(HOMEF)らは、人体への影響や環境リスクへの配慮に加え、GM作物種子の作出が一部の大手種苗会社によって独占されることを危惧しているようです。
過去の記事でもご紹介しているように、アフリカの小規模農家には十分な収入が得られていないものも多く存在しており、種子の価格決定が企業の意向に委ねられてしまうことが危険視されています。
さらに同記事では、農民の多くが学校に通っていない等の理由で識字率や教育レベルが低いことから、GM作物に対する認識が十分でないことがリスクとして取り上げられています。記事では、WhatsAppやFacebookなどのソーシャルメディアプラットフォームを通して、ナイジェリアの識字率の高い層の人々200人以上に調査を行ったところ、約70%がGM作物に対する知識がないと回答しているようです。
また遺伝子組み換え技術に対する知識があると答えた約20%の人々は、安全性の観点からGM作物よりも自然的な農法を好んでいると回答しているようです。
記事内でHOMEFのMariann Bassey-Orovwuje氏は、GM作物について十分に認識したうえで栽培を選択する必要性があると主張しています。
アフリカ農業への技術導入
今回のように、現状のアフリカの農業は未だ多くの課題を抱えているにも関わらず、それらを解決する新技術の導入には多くの障壁が存在しています。
今回の場合だと、教育の普及が不十分であることによる識字率の低さが課題の一つとして挙げられていましたが、こちらの記事では、アフリカの若者の土地へのアクセスの低さ、資金力の低さが農業における新技術の導入を妨げていると記されています。
このことからも、アフリカにおける新たなイノベーションの普及には革新的なテクノロジーだけではなく、教育やインフラなど多方面から現地の人々をサポートして、技術が受け入れられやすい環境を整えていくことが重要であると考えられます。
いかがでしたでしょうか。Pick-Up!アフリカでは、毎週金曜日にアフリカの農業に関連したニュースを取り上げています。
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参考文献:
1.アフリカの農業の機械化がもたらす効果は?【Pick-Up!