題:Microsoft社がアフリカの農業に参入!アグリテックスタートアップのハッカソンを開催(シリーズ:アフリカの農業とイノベーション 其の2)
訳 : Microsoft社が農業のデジタルトランスフォーメーションによって、食糧安全保障の向上を目指す
英題:‘Microsoft targets food security in Africa with agric digital transformation’
記事リンク:https://farmersreviewafrica.com/microsoft-targets-food-security-in-africa-with-agric-digital-transformation/
こんばんは!pick-up!アフリカです。いつも記事をご覧いただき、ありがとうございます。
今回も前回に引き続き、「アフリカの農業とイノベーション」と題して、アフリカの主要産業である農業と、それを取り巻く様々な問題に対する新たなイノベーションについてご紹介します。
前回は「農業×金融テクノロジー」というテーマに着目し、Mastercard社とEcobankグループが開発に取り組んでいる農業従事者向けのデジタルプラットフォームについてご消化しました。前回の記事をまだ読んでいないという方は、こちらもぜひご覧ください。(シリーズ:アフリカの農業とイノベーション 其の1)
シリーズの第2弾として今回ご紹介するのは、世界最大手のインターネット会社であるMicrosoft社のアフリカ農業の課題解決に向けた取り組みです。
内容と背景:
アグリテックが照らすアフリカ農業の未来
アグリテックとは、農業(Agriculture)とテクノロジー(Technology)を掛け合わせて作られた造語であり、ITやデジタルデバイス、インターネットなどのICTを用いた新たな農業技術全般を指しています。
アグリテックの活用は例えばドローンを使用した栽培技術(こちら)や作物の輸送時におけるコールドチェーンの強化(こちら)、さらにeコマースの導入による流通における信頼性・安全性の向上(こちら)など多岐に渡ります。アグリテックに関しても、多くの過去記事を投稿しているので、一番下の関連記事をぜひご参照ください。
そんな中で今回取り上げるのは、Microsoft社と、NIRSALというナイジェリア中央銀行が運営する農業専門の貸付金融機関と連携して、ナイジェリアのスタートアップを対象とした農業イノベーション技術に関するハッカソン(the Agro Innovate Hackathon)を開催したというニュースです。(参考文献)
引用元の記事によると、このハッカソンの最終目的として農家と顧客をビジネス面で繋げること、農家のインターネットへのアクセスを容易にすること、そして農業の生産性・経済性を高めることができるプラットフォームの開発を掲げています。
ハッカソンを通じてナイジェリアのアグリテック関連のスタートアップ企業3社を選出し、Microsoft社とNIRSALのサポートの元に会社の育成を行います。数値目標としては、初年度1万人の農家のプラットフォームへの登録、3万人の農家へのトレーニングを行うことを設定しています。
アグリテックはアフリカ農業の課題を解決するのか
今回のように、Microsoft社がアフリカの農業、特にアグリテック分野に進出している事例はほかにもあります。
私たちの過去記事でもいくつかご紹介しており、2020年の9月ごろには、ケニアに本拠地を置く農業振興団体「アフリカ緑の革命のための同盟(AGRA)」との連携を発表し、アフリカ農業におけるデジタルトランスフォーメーションへの支援やスキルサポートを行っているほか(マイクロソフトがAGRAとのパートナーシップを強化)、ケニアの灌漑システムや物流プラットフォームの開発にも着手しています。(アフリカの農業セクターにおけるマイクロソフト社の取り組み)
このように同社がアフリカの農業に参入している背景として、引用元の記事内では3つのポイントが挙げられています。
1つは、アフリカの農業が持つ大きな経済的ポテンシャルです。
引用元の記事によると、アフリカの農業部門は今後10年間で飛躍的な成長を遂げ、2030年までに1兆ドルの経済規模に到達すると見られています。こちらの記事によると、アフリカの農業が持つポテンシャルは、農業がアフリカ全体のGDPの約14%を占め、大陸全体の労働人口の52%が従事している産業であること、さらに現在協議が進められているアフリカ大陸自由貿易協定(AfCFTA)の実施により、アフリカ域内の貿易が49%増加する可能性があることなどが挙げられており、このような理由が今後見込まれる農業の発展の根底にあると考えられます。
またアフリカはアグリテックの分野においても急激な成長を示しており、こちらの記事によると、2015年時点でアフリカのアグリテック関連のスタートアップ企業による資金調達は5万ドルだったのに対し、2020年には約6000万ドルの資金調達を達成しています。
2つ目のポイントとして、依然として存在する農業の生産性の低さという課題が挙げられます。
アフリカにこのような低い生産性は、環境的要因や低い肥料の使用率(アフリカで化学肥料を普及させるには)、農地・農業技術へのアクセスの低さ(アフリカでスマート農業は普及するのか?)など、様々な要因によりもたらされています。
そのことからも、McKinsey and Companyが発行しているこちらの記事によると、アフリカの本来持つポテンシャルを最大限発揮した作物の生産量にはまだ至っておらず、現在の生産量のおよそ2~3倍の穀物を生産し、2019年時点での世界の作物生産量約26億トンの20%にあたる穀物を生産することができると記されています。
最後の3つ目のポイントとして、アフリカの小規模農家のアグリテックへのアクセスが低いことが、今回のプロジェクトの最大のポイントとして挙げられます。
こちらの記事によれば、アフリカの農業において小規模農家は80%以上を占めており、その多くが遠隔地に住んでいることから、アグリテックの導入によって情報が彼らの元に届きやすくなることが非常に重要であると考えられます。
現状では、ルワンダのNPO法人であるHeifer Internationalがアフリカの11カ国で、若者約3万人、小規模農家約300人、110の農業系組織を対象に行った聞き込み調査によると、対象国で農業に従事している若者のうち、アグリテックを利用している者はわずか23%にとどまっていることがわかっています。(参考文献)
その一方で、近年急速にスマートフォンなどのモバイルデバイスがアフリカの小規模農家で普及していることと、新型コロナウイルスの感染拡大による移動制限から、スマホアプリなどを使用した農作物の取引の必要性が生じたことにより、今後急速にアグリテックが浸透する可能性も考えられます。
これらのことはこちらの記事に記されており、同記事によるとアフリカの小規模農家におけるモバイルデバイスの使用率は現在の45%から2030年には55%以上に拡大すると予測されています。
またこちらの過去記事では、コロナ禍におけるアフリカ農村部でのeコマースの普及が進んだことが記されています。(eコマースが農業の物流を変えるより)
以上のことから、Microsoft社は今回のプロジェクトを通してアフリカの小規模農家向けの農業データのプラットフォームを構築することで、さらなる経済成長が期待されるアフリカのアグリテック産業のシェアを確保する狙いがあると見られます。
スタートアップに寄せられる期待
Microsoft社とNIRSALはナイジェリアのスタートアップ企業を対象としたハッカソンと上位企業の育成を通して、今回のプロジェクトの達成を目指しています。
近年のアフリカのスタートアップに対する投資は年々増加しており、こちらの過去記事によると、2020年11月の新型コロナウイルスのパンデミックの最中においても、アフリカのテック分野(もちろんアグリテックも含む)への外国直接投資(Foreign Direct Investment:FDI)は、前年度から50%増加した8億3100万ドル(約831億円)を計上しており、情勢に関わらず、投資対象として高い将来性が見込まれる市場であることがわかります。
アグリテック領域においても、アフリカのスタートアップ企業の平均調達額は2018年に130万ドル、2019年に280万ドル、2020年には370万ドルにまで上昇しており、2020年には6社のスタートアップ企業が100万ドル以上の資金調達を達成しました。(参考文献)
今回のMicrosoft社の動きも、さらに多くのスタートアップ企業に波及し、アフリカのアグリテックの拡大をさらに加速していくことが期待されます。
いかがでしたでしょうか。今後もアフリカのアグリテック産業とMicrosoft社のプロジェクトからは目が離せなさそうです。
下の関連記事欄にはアフリカのアグリテックやスタートアップに関する過去記事を並べたので、ご興味のある方はそちらも是非ご参照ください。
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参考文献:
1.ドローンと衛星を活用する農業セクターでの動きを紹介!【Pick-Up!